全国知事会、全国市長会が事業仕分けの対象に?

共同通信 5/8】
http://www.47news.jp/CN/201005/CN2010050801000469.html

事業仕分け後半、知事会も対象に 枝野行政刷新担当相

 枝野幸男行政刷新担当相は8日、公益法人などを対象に行政刷新会議が20日から実施する事業仕分け第2弾後半日程で、全国知事会などの地方団体を取り上げる方針を固めた。知事会や全国市長会など地方6団体が総務省OBの天下り先になっているとの批判を重視、天下り根絶への強い姿勢を示すとともに、地方分権の障害になっていないかどうか実態を調べる必要があると判断した。

 この問題については、4月20日の刷新会議で前鳥取県知事の片山善博慶応大教授が「地方6団体の事務局は典型的な天下り団体だ。しっかりとメスを入れる必要がある」と指摘。枝野氏が「広い意味で行政刷新の視野に入れる」と応じていた。

 日程の都合もあり、仕分け対象は地方6団体のうち知事会を含む1、2団体となる見通しだ。

 ただ、地方6団体は地方自治法に基づく「全国的連合組織」で、公益法人などとは組織の在り方が異なる上、刷新会議内に天下り調査のため特定の組織を取り上げるのは、効率性などを検討する「事業仕分け」の手法になじまないとの意見があるため、具体的な議論の進め方は今後調整する。

2010/05/08 22:21 【共同通信

○とりあえず「地方6団体」って何?

Wikipediaより引用)

地方六団体(ちほうろくだんたい)とは、

地方公共団体の首長の連合組織である
全国知事会全国市長会全国町村会の執行3団体と、

地方議会の議長の連合組織である全国都道府県議会議長会全国市議会議長会全国町村議会議長会の議会3団体を合わせた6つの団体の総称。

法的には地方自治法第263条の3に、これら首長や議長が全国的な連合組織を作った場合、内閣総理大臣に届け出を行なうことや、地方自治に関する事項について総務大臣を通じて内閣に申し出を行なったり、国会に意見書を提出したりすることができると定められている。

ちなみに、全国市町村会じゃなくて、全国市長会全国町村会というように分かれているのは、戦前の「市制・町村制」の名残りです。近年は市町村合併もあいまって、内部的には合併も検討されています。もっとも、全国町村会はつい先日会長が汚職で逮捕されて、発言力が急速に低下していますが・・・

ちなみに、6団体とも、地方自治法に設置根拠がありますが、法人格はなく、「権利能力なき社団」です。


○どんな役割があるの?

ぶっちゃけ、昔は親睦団体だったそうです。

しかし、日本の行政は、国と自治体で役割分担して行われています。
例えば、公立の小中学校は、国が学習指導要領を定め、先生の給料は国が3分の1、都道府県が3分の2負担していて、学校の運営自体は市町村が行っています。
(これを、専門用語で「融合型」といいます。対照的に欧米は行政分野によって国・州・市町村が完結して行うので、「分離型」と言っています。)

このようなことから、費用負担や役割分担について、国と自治体との間で意見の相違や利害対立があったりするわけです。
そうした時に、自治体を代表して意見を述べるのが、地方6団体の役割です。
こうした「意見具申権」は地方自治法に規定されています(実際に通常の「要望」では「意見具申権」を行使することはほとんどありませんが)。
また、内政に関する重要事項(道州制地方交付税制度や、個別事務ではたとえば生活保護の制度設計など)について、事前に国と自治体の間で協議する「国と地方の協議の場に関する法律」が現在国会で審議されており、この法律では地方6団体の代表が協議のテーブルにつくことが定められています。


○地方6団体が総務省の「天下り団体」ってのはホント?

これは間違いありません。
全国市長会でいえば、事務方トップの事務総長、事務局次長がキャリアのポスト(事務局次長は「現役出向」)、行政部長(地方制度全般を所管)、財政部長(地方財政制度を所管)がノンキャリのポストになります。
ちなみに全国知事会の事務総長は事務次官経験者、全国市長会の事務総長は局長経験者です。この辺はポストによって、本省でどこまで偉くなったのかによって決められています。


○じゃあ、地方6団体は総務省の言いなりってこと?

そんなことはありません。
私の知る限り、事務総長といえどあくまで「事務方のトップ」であり、首長(特に会長)の言うことには逆らえません。
全国知事会であれば「全国知事会議」で決まったことが絶対です。
全国市長会の場合は809もの構成団体があるので、「全国市長会議」はシャンシャンの場ですが、その代わり、国への要望事項の内容は各市区→都道府県市長会→ブロック別市長会という形で、ボトムアップで決められていきます。
ただ、意見が食い違ったときの調整や、意見を聞く段取りは事務方で行うので、事務方主導に見えるんだと思います。
報道では橋下知事全国知事会天下り批判をしたということですが、全国知事会議で自分の意見が通らなかったことが気に入らなかったのではないでしょうか。

※一般的に、「官僚主導」というのは、政治家とマスコミが誇張している部分があります。仕事柄、霞ヶ関の人ともお話しする機会がありますが、基本的には、大臣の考えを忖度して、政策立案を行っていますし、それができるのが優秀な官僚とされています。だから、一見すると官僚が絵を描いているように見えますが、そこにはかなりの部分、大臣の「色」が出ています。これは、地方6団体でも同じです。

ちなみに、総務省とこの辺は経産省と財界との関係でよく議論されていることと似ています。よく言われることが、経産省は財界に対しては霞ヶ関代理人として振舞うが、霞ヶ関に対しては財界の代理人として振舞うという議論です。総務省自治体との関係も、おおむね似たようなものだと思います。


○「事業仕分け」って、無駄な事業を洗い出すためにやるんじゃなかったっけ?

事業仕分け」を開発したシンクタンク構想日本」ではこんな紹介がされています。

http://www.kosonippon.org/project/list.php?m_category_cd=16

事業仕分けとは?
・実施する自治体職員と「構想日本事業仕分けチーム」(他自治体の職員、民間、地方議員などで構成)が侃々諤々の議論をする
・国や自治体の行政サービスについて、予算事業一つひとつについて、そもそもその事業が必要どうかを議論
・必要だとすると、その事業をどこがやるか(官か民か、国か地方か)を議論
・最終的には多数決で「不要」「民間」「国」「都道府県」「市町村」に仕分け
・「外部の目」(特に他自治体職員。いわゆる「同業他者」)を入れる
・「公開の場」で議論する(広く案内し誰でも傍聴できる)
・「仕分け人」はボランティア(企業がコンサル業務を行うのではない)

どう強弁しても、「天下りの根絶」を狙い打ちにすることはできませんね。
この辺には事業仕分けが国民の支持を集めたことから、どんなことをしてもいいという、仕分けを担当する政治家の「驕り」を感じます。
天下りの問題について議論するなら、別のスキームを用意すべきでしょう。


自治体の共同組織について国が一方的に対象を選定していいの?

いいわけありません。
今回対象になると言われている「(財)自治体国際化協会」も自治体の協同組織ですが、こちらは石原知事、橋下知事を含めて、負担金が多すぎるというブーイングが相当出ていたので仕方ない部分はありますが、地方6団体については、各自治体の首長から強い疑問が出ていたわけではありません。橋下知事片山善博氏(慶応大学教授、元鳥取県知事)が批判していたくらいでしょうか。
あくまで国が自治体の「合意」なしに共同組織を事業仕分けの対象としたら、中央集権の謗りは免れません。2000年の分権改革で国と自治体の関係は「上下・主従」から「対等・協力」に代わったはずですが、これでは「上からの強権」そのものです。まして鳩山内閣は「地域主権」を「一丁目一番地」とずっと強調してきましたが、その方針とも矛盾するのではないでしょうか。


総務省天下りをやめたらどうするの?

これは非常に難しい問題です。その辺の天下り団体であれば、地方自治に精通した学識者やシンクタンク経験者でも勤まりますが(むしろその方が望ましい部分もある)、地方6団体の事務方トップの場合、地方自治に精通し、かつ利害調整に長けた人材が必要になります。もちろん、個々の自治体にはそういった能力を持った人材はいます。しかし特定の自治体の職員ないしはOBが事務方のトップになると、特定の自治体に有利になるように振舞うかもしれないという問題が出てきます。
また、地方6団体の事務方トップには政治的中立性が必要となります。実際のところ、今でも自治体のほとんどは保革相乗りであり、自民党金城湯池です。最近は政令指定都市都道府県で民主党が勝っていますが、地方自治体の首長もそういった政治的バックグラウンドを抱えています。
そうなると、党派性から「中立」な人材を選ぶ必要も出てきます。
そう考えると、総務省OBというのは消極的選択としては、アリなんじゃないかと思います。もしどうしても天下りをやめさせたいなら、上記の問題に対する対案を示すべきでしょう。


○で、結論は?

・「天下りの根絶」という目的だけでは、そもそも事業仕分けという手法になじまない。
・国が地方の共同団体を一方的に「仕分け」するのは、中央集権と言われても仕方がない。
・「国と地方の協議」が法制化されて発言力が増す地方6団体の事務方の人事に首を突っ込むのは自民党優位の地方6団体の現状に楔を打とうとしている疑いがある。

特に1番目と2番目は、地方6団体は首長の意向を踏まえた上で、早急に説明を求めるべきでしょう。